まだまだ周知されていませんが、琉球には
「仏教大国」といっても過言ではないほど、多くの神社仏閣が建立された時代があります。
最も多かったのが臨済宗、次に真言宗。あと熊野権現を祀る神社。などなど。
そして、しばしば指摘されるのが、
寺社が建立されたのは首里・那覇という当時の都市部がほとんどだということ。
なぜか?
よく分かってないようです。
実は私、沖縄の寺院にあまり興味がなくて(笑)
ずっとこの問題をスルーしてきたのですが、聖地の研究をしてるのにそれもどうかと思って、この度、自分なりに考察してみました。
天久山聖現寺(那覇市)
まず、首里・那覇・浦添ほど首里城に近くない寺社をピックアップすると、
(寺社名 :
創建年代)
①普天満宮・神宮寺(宜野湾) :
15世紀中頃か?
②金武宮・観音寺(金武) :
16世紀中頃
③照太寺(伊江) :
16世紀中頃
④祥雲寺(宮古) :
17世紀はじめ
⑤桃林寺(石垣) :
17世紀はじめ
⑥糸蒲寺(中城) :
不明
といった感じです。首里・那覇に何十という寺社があることを考えると、本当に少ないですね。
これらを踏まえて、まず従来あった説のひとつをご紹介します。
14世紀後半~15世紀中頃にかけて、王家や王府役人らに信仰され、首里・那覇という政治経済の中枢に寺社が建立されていった。
16世紀はじめ~17世紀以降にかけて、地方に信仰が伝播していった。
この説には前々から非常に違和感がありました。
疑問1 : 15世紀中頃にはすでに首里から離れた①普天満宮・神宮寺が建立されている。
疑問2 : 「地方に伝播していった」とするには、寺社数が少なすぎる。地方に信仰があったとはまるで思えない。
これらの問題をクリアする歴史像とはどのようなものでしょうか?
まず、この問題に関わる重大な歴史的事件が2つあります。
・中央集権国家の成立(15世紀はじめ)
中央集権国家が成立する前、琉球は統一国家とはいえ、各地にはまだ按司が割拠していました。
各地の按司が首里に移住させられることで、王府は琉球全域を直接支配するようになります。
・薩摩侵攻(17世紀はじめ)
1609年、薩摩の支配下に置かれた琉球は、勝手に寺社を建立してはいけないと命令されます。
この2つの事件前後で、寺社の状況は変わったと考えられます。
ここでは仮に、下のように時期を区分します。
(時期A) → 中央集権 →
(時期B) → 薩摩侵攻 →
(時期C)
(時期A)は、首里・那覇を見ても、最も多くの寺社が建立された時期です。
この頃の王府は、とにかく寺社を建立しまくりたかったのだと考えました。
地方にも建立したかったのにできなかった。
なぜか?
地方にはいまだ按司が割拠していたからです。
王府の直轄地にしか建立できなかった
という状況があったのではないでしょうか?
(時期A)に建立された①普天満宮・神宮寺(宜野湾)は、王府の直轄地であったという想定になります。
王府が寺社を建立しまくりたかったという根拠は?
(時期A)の中でも最も仏教の興隆に熱心だった
尚泰久王は、数多くの梵鐘を造らせますが、奉納先は寺院だけではなく、
ふたつのグスクにも掛けさせました。
首里城と越来(ごえく)グスク(沖縄市)です。
首里城に掛けられた梵鐘は、あの有名な「万国津梁の鐘」です。
もうひとつの越来グスクは、尚泰久が国王に即位する前に治めていた場所でした。即位後も、直轄に等しい状況だったのではないでしょうか。
尚泰久は、王府が直接関われる地域に仏教を広めようとしたものと考えられます。
それが首里・那覇であり、普天間および越来でした。
中央集権化が成り
(時期B)に入ると、王府は琉球全域に寺社を建立することができます。
首里・那覇だけでなく、②金武宮・観音寺(金武)、③照太寺(伊江)にも建立が可能でした。
しかし、
(時期A)ほど積極的に寺社を建立する気はなかったような気がします。
それもそのはず、中央集権を成し遂げた尚真王は、神女を中心とした琉球固有の信仰を重視した政策を執ったからです。
(
「13話 前代未聞!尚真一派の権力独占システム」参照)
(時期C)は、前述しましたが、薩摩の命で琉球は自由に寺社を建立できない時代でした。
④祥雲寺(宮古)、⑤桃林寺(石垣)は
(時期C)に建立された寺院ですが、薩摩の役人の要望だったようです。
粗々ですが、ざっとこのような歴史像を想定しました。
もしも
(時期A)に中央集権が果たされていたならば、現代の沖縄は神社仏閣だらけだったかも知れません。
とにもかくにも、信仰なんてものは勝手にじわじわと広がるなんてことはありません。
政治であったり布教であったり、広めようという誰かしらの意思が働いて初めて広がるものです。
その意思が誰のもので、何が動機だったのか?
というところまで突き詰めて考えていかないといけないのでしょうね。
なにかご意見、ご質問があればコメントください。
みんなで琉球史を楽しみ尽くしましょう(笑)
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