14話 辞令書は「王権>神女権力」を意味するか?

神女のクーデターによって擁立された第二尚氏三代、尚真王(在位1477-1527)は、政敵となり得る旧神女組織を解体し、新たなピラミッド型の神女組織を創設しました。
その頂点の神女である聞得大君(きこえおおきみ)妹の月清を就任させます。

尚真は、新神女組織の権威を大いに高めることで、神女によって守護・承認されている自らの王権がいかに正当であるかを強調しました。
そして一方で、神女の任命権を、国王が持つよう制度化したのです。

国王神女が任命する。
神女国王が任命する。


兄(国王)と妹(聞得大君)がそれぞれの正当性の根拠を互いに委ねあい、他派閥の男性と神女が最高権力に介入できないシステム。
私はこれを「排他的継承システム」と呼んでいます。
「13話 前代未聞!尚真一派の権力独占システム」参照


さて、通説かのように語っていますが、今のところこの説は私しか唱えていません(笑)
私以外の研究者は、ほとんどみんな、神女より国王の方が圧倒的に権力が上だったと考えています。

その根拠は「辞令書」の存在です。
辞令書は男の官人や神女職に交付されましたが、交付元はすべて国王でした。

普通に考えれば、辞令書は偉い人から配下に下されるもの。
辞令書をもらって国王にペコペコしている神女の姿を想像すれば、

神女権力もへったくれもねーや!

となるでしょう。
王権神女権力
と考えるのも無理はありません。


しかし、そこには巧妙なカラクリがありました。

なんと、国王は、“神女”辞令書を交付したことはないのです。


それはどういうことか?

「6話 圧倒的女性優位の信仰」でお話しましが、神女は生まれた時から神であった訳ではありません。
聖地に入って神のセヂ(霊力)をその身に宿す儀式を経て初めて、神女となります

すなわち、儀式前はただの女性なのです。

14話 辞令書は「王権>神女権力」を意味するか?
世界遺産 斎場御嶽(南城市)
聞得大君の就任儀礼が行われた聖地

国王が辞令を下した相手は神女ではなく、未だ神ならざる女性だった
ということになります。
一女性相手であれば、神(神女)のセヂを身に宿した「てだ」(国王)の方が信仰的に格上です。

尚真一派は、女性が神女になるまでのタイムラグに辞令というシステムを導入し、国王による神女の任命を実現させたのです。


ちょっと複雑なので簡単に流れをまとめると、


国王「そなたに神女職を授けよう」(女性に対して辞令書を交付)

女性「ありがたき幸せ 謹んでお受けいたします」

  女性、聖地に赴き神(神女)と化す。
  
  神女、聖地より帰還。

国王「よくお戻りになりました。どうか私に国を治める力をお与えくださいませ」

神女「よろしいでしょう しっかり働きなさい」


という感じです。
立場が逆転してしまうんですね。


それにしても、かなり大胆な改革です。
そんな屁理屈あるか!?
と反発があったかも知れません。

でもいいのです。
尚真は神女にさえ文句を言われなければ、何も問題ないのです。

「祭政の最高権力を共に独占していこう」
と結託した妹から、不平不満が出るわけはないのでした。



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